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 金のない日本映画の期待の新人に期待することは少ない。しかもこの2本はそれに加えて、モラルも脳ミソもない。ナイナイづくしで途方に暮れてしまうが、途方に暮れて呆然としながら、まあいっかとジャージの上から尻を掻きながらバリバリせんべいを齧りながらワイドショーを見ていたら一瞬で老人になってしまう。彼女はつまり途方に暮れずに、映画を撮ったわけだ。ありったけの楽観主義で。そして、決定的な瞬間をカメラに収めたことで辛うじて映画作家の仲間入りをしている。敬愛する浅田彰はこんなコメントを寄せている。ホメ過ぎじゃないか。

ウルトラミラクルラブストーリー」は観る者をあっさりとノック・アウトする。カラックス(疾走)やデプレシャン(頭蓋骨/脳)やリモザン(NOVO=記憶喪失の<新しい人>)、あるいは黒沢清(「人間合格」)とも通じるポスト前衛ドタバタ映画を、しかし、決してスノビッシュに真似るのではなく、地元に腰をすえ全篇津軽弁のオリジナル作品として撮り切っているのだ。松山ケンイチ以下、登場人物も素晴らしい。「生きていてよかった」と思わせる作品が名作だとすれば、これは「生きていてもいい、死んだっていい」と思わせる傑作だろう。それを観て、人は泣き、人は笑う。そこには映画だけがもたらすことのできるノンセンスな——つまりは純粋なモーション/エモーションがある。
浅田 彰(批評家)