サニーデイ・サービス約10年ぶりのアルバム『本日は晴天なり』を聴いてみたが、詩もメロディもサウンドプロダクションも駄目だった。アートワークは◎。他の人の感想も覗いてみたが、否定的なのは見当たらない。

本日は晴天なり

本日は晴天なり

 曽我部恵一は詩が書けなくなった。たとえば「愛と笑いの夜」では他でもないここ(東京)がここではないどこか(ロンドンやニューメキシコ州)と地続きだと思わせるような、豊穣なイメージを持った名曲だった。それは逃避でも居直りでもなく、現実の肯定だった。この曲に「きみ」はいても「ぼく」はいない。一人称が消えている分、普遍的な力を持っていた。『本日は晴天なり』は「きみとぼく」で溢れている。それが息苦しい。息苦しさはそれだけではない。このアルバムはメタファーで埋め尽くされている。メタファーは、相手が自分と同じ種類の人間だと高を括っているときに生まれる。「ピーナッツバターの風」といきなり言われても、我が家の二つ隣に住んでいるイラン人には何のことかチンプンカンプンだ。そこには仲間(ファン)同士の狭い空間しか存在しない。かつては直喩はあってもメタファー(隠喩)はほとんどなかったはずだ。
 サウンド面で言えば、『MUGEN』に近いがひどく保守的だ。「真夜中のころ・ふたりの恋」のような超名曲もないし、ましてや「24時のブルース」のように少ないコードで10分以上聴かせる大名曲もない。このアルバムには何もない。まだ買ったばかりじゃないか。聴くたびに良くなるスルメ型の曲もあるだろう、と言われるかもしれないが、オレぐらいになるとスルメ型の曲も一聴してわかるので、その望みもない。90年代後半から2000年にかけて日本で最も優れたソングライターが、10年経ってこんなことになってしまった。きっとファンは賞賛するだろう。そのファンに向けてまたアルバムを作るなら草木も雑草も生えてこないと思うが、それは3人の力ではなく、時代の要請なのかもしれない。
 ガッカリしたので、極私的サニーデイ10曲を発売順に選出してみた。心して読まれよ。

  • きれいだね
  • 雨の土曜日
  • 愛と笑いの夜
  • 週末
  • 果実
  • 24時のブルース
  • スロウライダー
  • 真夜中のころ・ふたりの恋
  • 魔法(Carnival Mix)
  • 愛のシーン