• 『だいじょうぶマイ・フレンド』(1983/村上龍

 村上龍の長篇第4作『だいじょうぶマイ・フレンド』は、自身が翻訳したリチャード・バックSF小説『イリュージョン』に酷似しているらしいが、それを指摘して鬼の首をとったつもりでいるわけではない。そもそも、『イリュージョン』を読んだことはない。
 ゴンジートロイメライという超能力をもつ異星人と、ミミミ、ハチ、モニカの3人の男女が、遺伝子操作によって世界征服を企てる「ドアーズ」というシンジケートに立ち向かうという、およそ村上龍的作品からは遠く離れた物語である。「ダイジョウブ・マイ・フレンド」という言葉は、ハチとモニカが捕えられて、Tリングという人間をロボットのように無抵抗な存在に変えてしまう機械を装着されたあとに出てくる。まったくダイジョウブじゃない状況だ。

 おお、かわいそうに、君もそうか、人まで殺したのか、病気だったのだね、でも君のせいではないんだよ、親から受け継いだ劣悪極まる遺伝子のせいなんだ、そうだよ、希望などあるわけがないものな、劣悪な遺伝子を受け継いだ子供に、少年よ大志を抱けっていう方が無理なんだ、貧困な頭脳と脆弱な精神は常に戦いを強いられてきたのだろう、人を殺すほど衰弱していたのだね、だが、もう大丈夫だよ。
 これが君達を救う奇跡のリングだ。
 これを君達の脳にはめこむ、中間脳の生理的興奮部位にさし込むだけで、君達はまったく別の人生を歩むことになるのだ、君達の感情から苛立ちや怒りや憎悪や不安がきれいに取り除かれる、わかるかね?平和だ、永久かつ全面的な心の平和が訪れるのだ。

 何より恐ろしいのは、Tリングを嵌めた「衛生人間」は管理者がいなくなると何もできず死んでしまうことだ。組織に依存しているとあっという間にスポイルされてしまう。だが何か特別な知識と技術がなければ、組織に依存するしかない。「睡眠が何より好きで、早起きするのが死ぬほど嫌いだから小説家になった」村上龍らしいモチーフだが、これを読んでさあオレはどうするか。

だいじょうぶマイ・フレンド (集英社文庫)

だいじょうぶマイ・フレンド (集英社文庫)