• 『潤一郎ラビリンス(4) 近代情痴集』(谷崎潤一郎

 タニザキ・ラビリンスに迷い込んで早3ヶ月が経った。中学生時分に読んだのは、一体なんだったのか(あの頃も面白かったが)。と自問自答するほど良いのですいすい通勤電車で読んでいる。
 第4巻は「近代情痴集」とされている。そう言われれば、ほとんど全てのタニザキ作品は「近代情痴集」だ。もちろん、比重は「情痴」ではなく「近代」に置かれている(タニザキの「情痴」は21世紀の感性から見直すと、やはり陳腐である)。近代とは、誰もができることなら「愚」であるよりも「賢」でありたいと望んでいる時代のことだが、タニザキは『刺青』を「其れはまだ人々が『愚』と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように軋み合わない時分であった」という一文で書きはじめた。近代的な価値体系の転換、というか恐ろしく単純に言うと同時代批判だが、それが夏目漱石以下同時代作家のような倫理性/抽象性と無縁であることが、タニザキの特異性をさらに際立たせている。

  • 憎念
  • 懺悔話
  • お才と巳之介
  • 富美子の足
  • 青い花
  • 一と房の髪