苦かったね〜魯迅。『阿Q正伝』は当然苦いし、『狂人日記』も苦いし、ここに収録されている14篇のうち12篇は本当に苦い。そういえば書き忘れてたけどこの前の日曜日に井上ひさし主宰のこまつ座による「シャンハイ・ムーン」という演劇を観てきたわけなんだけど(というかこれを観るから魯迅を読んだんだけど)、魯迅ってやっぱり小説家じゃないね。非=西洋圏の近代小説家の中で、世界的にもっとも有名なのは魯迅なんだと思うけど、そして劇中でも「小説を書きたい」と連呼していたけど、一番長い小説である『阿Q正伝』でさえ56ページしかない。オーソドックスな長編を書いてないところに魯迅の偉大さがあって、やっぱり「小説」という容れ物を信用してないね。「小説」と呼べる小説はほとんど書いてない。詩は書いてるから今度是非読んでみたい。魯迅は、やや図式的に言えば、アジアにおける「文学と革命」のあるべきスタイルを示した、とも言えるんだけど、これってほとんどブレヒトだよ。20世紀はじめの中国なんてほとんど"異界"だしね。
 いずれにせよ、阿Qほど卑屈で愚かでインパクトのある主人公もいないわけで、彼が縦横無尽に活躍するこの中編は必読です。翻訳は竹内好。「シャンハイ・ムーン」は逆にオーソドックスな「偉人もの」の演劇で、俺はあまり演劇は観てないから何とも言えないんだけど、そしてただいまロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書』を読んでるから演劇にはやや否定的になってるんだけど、もちろん観る価値はある。

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)