ブライアン・デ・パルマも今年で70歳だからもう新作も多くて3本ぐらいじゃないかと思っていて、ここ1ヶ月で総括的に現在観られる作品をすべて観たのだが、『Greeting』で「いきなりヌーヴェル・ヴァーグかよ!」と出鼻を挫かれ、「ヒッチコックしか出てこないんじゃないか?」と思う時期もあり心が折れかけたのだが、ちゃんと見るとそんなことはないし、逆にデ・パルマだっていろんなところで引用されていたりもするし、"デ・パルマヒッチコック劣化コピー"なんて高を括っていられないことがよくわかった。
 特に90年代以降(作品としては『虚栄のかがり火』)はどれも傑作。人を惹きつける強烈な何かが確かにあるね。執念というか。特に女性の描写に執念を感じた、女性の殺し方というかね。ほとんどの作品でヒドい目に遭ってる(笑)。同世代のスピルバーグはあまり女性を描く作品は少なかったし、あっても『カラー・パープル』みたいになっちゃうところがあるんだけど、デ・パルマ的作品の女性はまず「エロい」というのがある。『ボディ・ダブル』とか『殺しのドレス』とかでエロい女がヒドい殺され方をするし。基本的にエロいものには興味がある、というのも大きい。少し遡った『キャリー』(これはエロくない)なんて問答無用の大傑作だと思うし、企画モノの『ミッション・インポッシブル』(エロではない)も最高。
 もうヒッチコックを引用する、なんてレベルじゃないくて体に染み付いちゃってるというか、無意識的にヒッチコックになってる、という気がしてくる。ヒッチコックを引用しているのか、無意識なのか、あるいは過去にヒッチコックを引用した自作をさらに引用(自己言及)しているのか(例えば『カジュアリティーズ』と『リダクテッド』、あるいは『キャリー』と『フューリー』など)、もはや区別が不可能なくらい層が折り重なっていて、よくある小手先の引用とかじゃなくて、デ・パルマフィルモグラフィーが「ヤバいもの(ヒッチコック)」に感染した一人の男のドキュメンタリーになっている。それはそれで映画作家としてのあるべき姿かもしれない。
 21本の中から5本選ぶと下のようになる。いやはや、病的なラインナップだわ。次はキャメロンいきます。