長編処女作『殺人魚フライングキラー』で最低?のスタートを切ったキャメロンのキャリアだが、人間はここまで変われる!という証明が『アバター』だった。9・11以後の映画の決定版とも言える『アバター』については様々なところで語られているので割愛するが、物語の構図がいかに陳腐だろうと、その映画自体の面白さ(動く映像としての面白さ)はやはり圧倒的で、金とノウハウのある一部の監督にしか作れないシロモノだ。アイディア勝負のアート系映画なんぞ一瞬で蹴散らしてしまう力。現在、誰もが抱いているアメリカ映画のイメージ、つまりエイリアン、ターミネータータイタニック・・・これから映画を作る人こそキャメロンを繰り返し観るべきだ。そして「キャメロンの映画は構造がシンプルであるにもかかわらず、なぜ長尺になってしまうのか」を考える必要がある。このままでは"120分=映画の標準的な長さ"、という概念も変わってしまう。たとえば黄金期の1950年代のハリウッド映画はほとんど100分前後に収まっていた。ヒッチコックは"108分"という映画が多くある。そこには骨を削るようにフィルムを削っていた、という血なまぐさい省略の歴史(語りの効率化)があった。
 個人的には、『アビス』を推したい。キャメロンと言えば、海、というか深海という強固なイメージが付いてしまった。思えば『アバター』で画面中をふわふわとんでいるクラゲみたいな森の精も、『エイリアン・オブ・ザ・ディープ』の深海魚そっくりだ。ただ、『アビス』は170分を超える大作なので、もう一度観よう!という気になかなかなれないのが正直なところだ。『アバター』はほぼCGなので違う意味で疲れてしまう。タイタニックは194分。194分あれば中国に行ける。そんなこんなで『ターミネーター』や『トゥルー・ライズ』のポジションが上がった。というベスト5。次はクローネンバーグです。