カフカの任意の1ページの数行ですら、『KAGEROU』よりも面白いという現実。かつて『アメリカ』と題されていて、いまでは『失踪者』という元のタイトルに戻って刊行されている、カフカ未完の長編だ(カフカの長編はすべて未完だが)。ただ、『KAGEROU』のつまらなさを言い当てるのが難しいように、カフカの面白さをどう伝えればよいのか。困っている。
 ただ一つ言えるのは、アイディアさえあれば小説が書ける。書きたいことがあれば小説が書ける。伝えたいことがあれば小説が書けて誰かに伝わる。そんな素朴かつ楽天的な思考では「小説」は書けないということ。これは技術の問題ではない。物語はすべて19世紀中に書き尽くされている、それじゃあオレたちに何ができるか?っていう諦め混じりのヤケクソ。ジョイスだってカフカだってみんなそこからやってるんだ。

失踪者 (カフカ小説全集)

失踪者 (カフカ小説全集)