[,w300]
 「幸せが楽しいとは限らない」という字幕で始まるこのメロドラマは、ファスビンダーがメロドラマという点でダグラス・サークの子どもであり、「幸せは楽しくない」という『女と男のいる舗道』を意識した引用という点で明らかにゴダール、あるいは『快楽』のマックス・オフュルスの子どもであることを高らかに宣言している(カウリスマキファスビンダーの子どもであることは疑いない)。
 ファスビンダー自身の愛人でもあったサレムというモロッコ人俳優が主役で、このサレムという男は私生活で酔っぱらったいきおいで3人を刺殺し、その後刑務所の独房で自殺した。というトンデモ人物なのだが、それは映画の内容とは無関係。ドイツで差別を受けながら働くこの男が、掃除婦で生計を立てている初老の女性と愛し合う、という物語だ。前半は周囲の激しい差別を受けながら男女は激しく愛し合うが、逃避行的な旅行から帰って来ると、なぜか周囲は2人の愛を温かく見守る。それにやや戸惑いながらも慣れてくると、今度は逆に2人の関係が破綻を迎える。この「外圧との関係」はなるほど図式的だが、2人の関係が破綻を迎える理由は(画面として)描かれない。なのに不思議と自然に見れてしまう。映画に「理由」など必要ないのだ!また、物語のラスト近く2人が復縁するシーン、こちらは出会いと同様にチークダンスが「反復」される。ここではも復縁の理由など語られない。単にチークダンスがあるだけで、あまりのことに唖然としてしまった。
※「ファスビンダー」という名前が映画作家史上もっともイケてる名前であることも付記しておく。