「いまや悪いヤツらが真剣だ」(ゴダール)。
 「善事をまげて悪事となす」は、古代ギリシア=ローマ時代からの権力側のクリシェで、アテナイ人(アニュトス/メトレス)に訴追されたソクラテスの影ががほとんど小沢一郎とぴったり重なりあう。0.01%の人間によって、ほぼ100%の人間の意識が操作されるという、いつも通りのアホな報道によって、彼の強制起訴理由を「正確に」知っている人間がどれぐらいいるのでしょうか。

  • 小沢氏強制起訴(結審起訴)−起訴内容の要旨

 小沢一郎被告は、自己の資金管理団体である陸山会の会計責任者であった大久保隆規被告と、その職務を補佐する者であった石川知裕被告と共謀の上、平成17年3月31日ごろ、東京都新宿区の東京都選挙管理委員会において、
 (1)陸山会が16年10月12日ごろ、小沢被告から4億円の借り入れをしたにもかかわらず、これを16年の収入として計上しないことにより、同年分の政治資金収支報告書の「本年の収入額」欄に、これが5億8002万4645円であったとの虚偽の記入をし、
 (2)陸山会が16年10月5日と同月29日、土地取得費等として計3億5261万6788円を支払ったにもかかわらず、これを同年の支出として計上しないことにより、真実の「支出総額」が4億7381万9519円であったのに、収支報告書の「支出総額」欄に、3億5261万6788円過小の1億2120万2731円であったとの虚偽の記入をし、
 (3)陸山会が16年10月29日、東京都世田谷区深沢8丁目の土地2筆を取得したのに、これを収支報告書に資産として記載せず、収支報告書を都選管を経て総務大臣に提出し、もって収支報告書に虚偽の記入をし、記載すべき事項を記載しなかった。

 要約すると

 ①小沢氏からの4億円の借り入れを16年の収入として計上しなかった。
 ②16年に支払った土地取得代金分3億5261万6788円を翌17年に計上した。
 ③土地の資産計上を16年でなく翌17年に計上した。

 別に小沢一郎がどうなろうと関係ないですが、個人的には応援しています。あまりにもバカバカしいからです。まあ「陸山会」という悪徳業者のようなネーミングセンスは置くとして、上記の虚偽記載がいつの間にか「刑事事件」となり、報道により「政治とカネ」や「ヤミ献金疑惑」なっています。翌年の収支報告書には記載しているのだから、重要なのは、これが単なる計上日の期ズレ問題であり、「贈収賄事件」ではないこと。つまり、仮に虚偽記載であれば、「あ、そうなんですか、あいすいません」と言って修正報告書を出せばいいだけのことです。しかも7年も前。
 オレが小沢氏の立場だったら「もうええわ!」となるでしょう。
 監査手続ではカットオフテストというのがあります。たとえば4/1の売上を3/31に計上して当期の売上にしていないかどうかをチェックします(トヨタのような大企業になると1日の売上は数百億円にもなるので、チェックするのは物理的に不可能ですが)。とはいえ、ステークホルダーが多岐に渡る上場企業ならまだしも、陸山会の収支報告書の影響度はほとんどゼロです。期ズレ計上していたとしも、誰にも迷惑はかかっていない。公判が始まっていますが、検察はいつしか資金の出所を問題視してますが、そもそも資金の出所を記載する義務はないため、「小沢一郎は限りなく白に近いグレー」と見ていますが、「善事をまげて悪事となす」ノウハウを蓄積している検察=裁判の動向を見守りたいと思います。
 ソクラテスの嫌疑は、「不正を行い、また無益なことに従事する、彼は地下ならび天上の事象を探求し、悪事をまげて善事となし、かつ他人にもこれらのことを教授するが故に」、「アテナイの国家が信じる神々とは異なる神々を信じ、若者を堕落させた」。言い換えると、ソクラテスが信じた「神」とは「知」であり、「若者の知的好奇心を刺激(堕落?)した」罪です。紀元前399年から、人間ははたして進歩しているのでしょうか。
 今日の結論:特捜の国策捜査は犬も食わない。

ソクラテスの弁明・クリトン (岩波文庫)

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