広く知られているように、カフカが残した3つの長編『失踪者』、『審判』、『城』はすべて未完である。
 このことの意義は大きいように思う。『審判』では、主人公ヨーゼフ・Kが逮捕される冒頭と処刑される結末とが、ほとんど同じ構造になっている。つまり、カフカはこの小説のスタートとラストを同時に書いている。頭で書いているのだ。だからこそ、聡明なカフカは途中から書かなかったのであり、書けなくなったのだ。小説は物語ではない。書き手の意志とは無関係に運動する力学が働いてしまう。ややもすると、永遠に終わらない小説(『グイン・サーガ』のように作者の死でしか終わらない小説)だってあるだろう。ヨーゼフ・Kの人生のような、真っ暗なトンネルを延々と進む惨めな匍匐前進。

審判 (カフカ小説全集)

審判 (カフカ小説全集)