• 『潤一郎ラビリンス(13) 官能小説集』(谷崎潤一郎

 タニザキが繰り返し書いているのは、男女関係が常に権力構造の中にあるということ。むしろ、ほとんどそれしか書いてないと言っていい。惚れた腫れたなんて甘っちょろいモノではない、死闘がそこにある。主人になるか奴隷になるか、死ぬか殺すか。ふたつにひとつだ。
 ひとりの女性を自分の手で理想の女に仕立て上げてから、その女のもとにひざまずくという『捨てられる迄』では、『刺青』以来のモチーフを執拗に描いている。『熱風に吹かれて』は、明らかに漱石の『それから』のタニザキ版と言える内容だ。ただ、漱石になかったエロティシズムが加えられている(もちろん『それから』のほうが傑作であることは言うまでもないが)。

  • 熱風に吹かれて
  • 捨てられる迄
  • 美男