• 『鳥のように獣のように』(1976/中上健次

 遅効性の毒のように、ジリジリ効き目が湧いてくる「新人だったころ」の中上健次のこの初期エッセイ集は、いまの僕と同い年に書かれたことを知って、余計効いてくる。

 人間は諸関係の中で死ぬのである限り、死ぬ自由などありはしないと思った。死のうとする意志がどうしようもなくあるのは認めるが、死ぬ自由などないのである。その考えは、ぼくの倫理でもあるが、ぼくはその時、奇妙なことに、なにひとつまっとうな人間としてものを考えようとしないやつらは、生きてても目ざわりになるから首でもくくって死ね、そうすれば皮でもはいで肉を犬にでもくれてやる、と思ったのだった。