この鈍器にもなり得る分厚い書物がある。蓮實重彦の対談集。このカドで人の頭でも殴ったらとんでもないことになるな、などと思いながら、映画美学校のレポート用に読んだのだが、彼の言う「唯物論」はひどく難解で、実は誰しもが体験している。中沢新一との対談を要再読。

(蓮實)一つは、批評家の務めというのは正しい判断を下すものではないということがあります。正しい判断は世間が下すはずです。そして正しい判断というのはあらゆる場合においてくだらない。だから世間はくだらないわけで、それに対して批評家というものがあるとしたらば、その正しいくだらなさみたいなものに離反する、まあ反措定と言ってしまうと大袈裟だけれども、その隙間で正しくないことを言う以外にないと思うのです。(中略)これは文学の問題とか映画の問題、それからジャーナリズムの問題というより、やはり人生の問題であって、人生における正しい答えを全員が正しく下しているときに、やはりそれに逆らわざるを得ないのではないかということですね。