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- 『自殺よりはSEX』(2003/村上龍)
寂しくてどうしようもなくて自殺するよりは、援助交際や出会い系サイトを通じてリスクの高いSEXをするほうが良い。村上龍は『自殺よりはSEX』でそう書いている。もちろん、このような一般論ではすでに個々の問題を解決できないことに彼は気づいている。その場合、このエッセイ集は虚しいものとなるかもしれないが、彼特有のエネルギーとユーモアでかろうじてそれを回避している。
この夏、トッティや戸田に影響されて髪の毛を切った。それが伸びてきて広がってしまったので床屋に行くと、理容師の女性がジェルを使えという。髪がべたつくのでジェルは嫌いなんだというと、「普通のおじさんに見られちゃいますよ」と脅された。さらに、髪を染めろとか、シャツを外に出せとか、なんで床屋でファッションの指図までと思ったのだが、それ以上に「普通のおじさんに見られる」というのはどういうことなのだろうと考えてしまった。
「普通のおじさん」が敬遠されている。「普通のおじさん」が象徴するものとは無縁でいたいと多くの人が思っているのだろう。「普通のおじさん」に見られないように涙ぐましい努力をしている人もいる。長い髪を茶色に染めて、ちょんまげにしたりして、ヴェルサーチやミッソーニのセーターを着たおじさんたちがいる。テレビに出てくる文化人にもそういうのが多い。自分は「普通のおじさん」じゃないんだということを主張しているわけで、これだけ普通であるということが忌み嫌われている状況は、少なくともわたしが生きてきた五十年間にはなかった。
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2003/01/01
- メディア: 単行本
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