• 『持ってゆく歌、置いてゆく歌—不良たちの文学と音楽』(2009/大谷能生

 認識に言葉は必須だが、音楽の素晴らしさは一瞬言葉の世界から浮遊するような感覚が訪れることだったりする。文学的なものと無関係になる瞬間だ。
 大谷さん(面識があるので「大谷能生」とはなかなか呼べない。本人はいつも金がなさそうだった。ムラサキで呑んだときも俺たちが料理をバンバン注文すると「え?」という顔でこちらを見ていた)の『持ってゆく歌、置いてゆく歌ー不良たちの文学と音楽ー』では、深沢七郎ボリス・ヴィアン色川武大マルコムX中上健次宮沢賢治、レーモン・ルーセルポール・ボウルズといった作家(?)たちと彼らの愛した音楽についての断章なのだが、ほとんど結論らしいものは書かれていない。もちろん、書物に結論など不要なのだが、いつか決定的なものを書くだろう彼にとって、これはエチュード(練習曲)なのだと思う。
 巻末に坂本龍一との対談「文学と音楽をめぐる想像上の旅」が載っている。坂本氏と対談した、と少し上気して喜んでいた顔を思い出した。

持ってゆく歌、置いてゆく歌―不良たちの文学と音楽

持ってゆく歌、置いてゆく歌―不良たちの文学と音楽