• 『潤一郎ラビリンス(1) 初期短編集』(谷崎潤一郎

 全集は30冊もあるし、ブ厚いし、場所取るし、装丁も古くさいので、しばらくはこの『潤一郎ラビリンス』という中公文庫から出ている全16冊のシリーズものを読破することにした。他の出版社の文庫に未収録の短編が多数含まれている。このシリーズは、1997年にフランスのガリマール社から出版された『谷崎潤一郎作品集』に収録された作品を元に構成しているようだ。

 言文一致を無視した「麒麟」を含め全てが圧倒的に面白いけれど、どれも面白い、面白いと唱えていたらバカだと思われるから敢えて選んでみると「悪魔」かな。でも「續悪魔」は全集でしか読めないというまさかの仕打ち。耳の後ろから加齢臭を吹き出しているオヤジたちでさえ読まなくなった文芸誌を懲りずに毎月出している中央公論新社よ、いつでもツブレて良し!しからば、真夜中の早稲田通りをチャリンコ漕いで区立図書館に行くしかない。
 本物と贋物、現実と虚構の境界が曖昧になり、己の欲望に従い堕ちていく様を馬鹿馬鹿しいほどのユーモアで描いてみせること。その作品群を読みながら、通勤電車でクラクラしてしまおうではありませんか。

潤一郎ラビリンス〈1〉初期短編集 (中公文庫)

潤一郎ラビリンス〈1〉初期短編集 (中公文庫)