• 『潤一郎ラビリンス(5) 少年の王国』(谷崎潤一郎

 「少年の王国」と題した第5迷宮は、主に少年期の主人公が登場する。子どもの世界と大人の世界、現実世界から未知の世界へ、あるいは日常生活から虚構空間へ越境する少年。谷崎の重要な主題である「永遠に若く美しい母」が描写される「母を恋ふる記」は傑作。谷崎における「母」は、年老いた最後の姿ではなく、あくまで「七つか八つの子供」のころに見た若く美しい母であり、それは時に鳩に化身したり嫂だったりするのだが、端的に言い換えれば「美」の象徴である。彼が終世追い求めた女たちは全てこの永遠女性なのかもしれない。
 「小さな王国」は地域通貨を題材とした異色作で、柄谷行人の「市民通貨小さな王国」という刺激的な論考もある。併読せよ。

  • 小僧の夢
  • 二人の稚児
  • 小さな王国
  • 母を恋ふる記
  • 或る少年の怯れ

潤一郎ラビリンス〈5〉少年の王国 (中公文庫)

潤一郎ラビリンス〈5〉少年の王国 (中公文庫)