[,w300]
 ジャン・ルノワールの記念すべきトーキー第1作。なぜ「記念すべき」なのかは不明だが、これもひとつの慣用句だ。映画史のおさらいだが、映画史上のトーキー第1作は『ジャズ・シンガー』(1927/アラン・クロスランド)で、フランスでのトーキー第1作は『夜はわれらのもの』(1929/アンリ・ルーセル)。これぐらいは社会人として常識なのでソラでも言えるようにしておきたい。
 では、『ジャズ・シンガー』から遅れること4年、ルノワールのトーキーはどうか。恥ずかしながら、サイレント時代のルノワールは未見なので何も言えねぇ。45分のこの中編は、おそらく演出放棄、とも捉えられかねない固定ショットと長回しの多用からなっていて、舞台は主に書斎とリビングと子供部屋と廊下、という室内劇だ。反ブレッソン的な「演劇的」映画とは異質の「演劇的」映画と呼べるだろう。登場人物は6人。その誰一人際立たせることなく(クローズ・アップの禁止。バストショットまで)、切返しによる構図=逆構図の画面構成もない。この「偽りの距離の捏造を拒絶する映画的ディスクール蓮實重彦)」が、映画的な平板さを生んでいる。それは映画自体が持つ特徴でもある。